東京高等裁判所 平成9年(行ケ)31号 判決 1997年9月02日
北海道札幌市東区本町1条9丁目2番8号
原告
雪印食品株式会社
代表者代表取締役
藤井幸昭
訴訟代理人弁理士
藤野清也
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
岡千代子
同
田中弘満
同
吉野日出夫
主文
1 特許庁が平成7年審判第13787号事件について平成8年12月16日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文同旨
2 被告
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「連結包装食品」とする考案(以下、「本願考案」という。)につき、平成3年9月20日実用新案登録出願(平成3年実用新案登録願第84806号)したところ、発送日を平成7年6月6日とする拒絶査定を受けたので、同月29日審判を請求し、平成7年審判第13787号事件として審理された結果、平成8年12月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成9年1月29日、原告に送達された。
2 実用新案登録請求の範囲第1項の考案(以下、「本願第1考案」という。)の要旨
収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納し含気または真空包装してなる個包装した食肉製品包装体数個を少しずつずらしてその表及び裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯を当接してその収納部と周縁部とを順次連結貼付してなる連結包装食品(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1)本願第1考案の要旨は、前項記載のとおりである。
(ところで、上記「裏に~プラスチック帯を当接して」については、【図1】ないし【図3】の何れにも、食品包装体の裏に帯を貼付した態様は、図示されていず、考案の構成要件と図示の事実との間に齟齬が存すると思料される。さらに、上記「帯を当接してその収納部と周縁部とを順次連結貼付し」についてであるが、収納部とは、図示の5の部分のみと捉えた場合、【図3】の態様のものは、最上段の製品を除いては、収納部には連結貼付されていず、これもまた、構成要件と図示事実との問に食い違いが存するものと思われる。)
(2)これに対して、昭和54年実用新案登録願第158540号(昭和56年実用新案出願公開第75169号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。別紙図面2参照)には、以下の記載が、図面とともに記載されている。
<1>「第1図に示すように、個包装した菓子1をトレー2内に並べて収容し、同列ごとに透明な連結テープ3にて一連に連結し、連結テープ3の端はトレー2の縁に接着し、この状態にて外装袋4にて外装するものである。」(明細書2頁末より3行ないし3頁2行)
<2>「個包装した菓子をトレー内に入れずに外包装する場合には、夫々の菓子だけを一連に連結テープにて連結し、ブロック化することにより、上記と同一の効果を奏することができる。」(明細書3頁13行ないし16行)<3>「商品のデザイン効果を高める工夫をなしても良く、本考案においては連結テープの材質等は特に限定しない。また、上記実施例は菓子を対象としているが本考案は菓子以外の商品の包装構造にも適用が可能である。」(明細書3頁末行ないし4頁4行)
(3)引用例記載の「個包装にかかる袋」は、本願第1考案の「包装体」に相当しており、勿論このものも「収納部」と「周縁部」とを有することは図示の態様に徴し明らかなところである。そして、該収納部には、「食物製品」(菓子)が個々に収納され、包装されているから、引用例記載の包装体も「食物製品包装体」ということができる。また、引用例記載の「連結テープ」は、「帯状」をなしており、その材質は特定しないところ紙またはプラスチックを包括しているというべきであるから、本願第1考案の「紙帯またはプラスチック帯」を実現しているというべきである。さらに、引用例記載の食物製品包装体5個が、少しずつずらしてその表及び側部にそれぞれ1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯を当接してその収納部(食物収容物の収納された部分)と周縁部(該収納部の外周を画する周縁部)とを順次連結貼付されているから、引用例記載の商品も、包装体数個を連結した「連結包装食品」であるということができる。なお、原告は、引用例記載の包装体は、トレー等に接着固定させるものである旨主張しているが、これは、上記(2)の<2>に挙げた記載事実を蔑視するものであって採用に値しないものというべきである。
ところで、引用例記載の考案は、実施例上は食品につき、菓子を対象としているものの、何も菓子に限らず菓子以外の商品をも包括しているから(明細書4頁3行ないし4行)、本願第1考案に謳う「食肉製品」をも包括の限りというべきである。けだし、「収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納してなる個包装した食肉製品包装体」は、この出願前普通に知られているからである(例えば、<1>昭和57年特許出願公開第163612号公報、<2>昭和56年実用新案登録願第71269号(昭和57年実用新案出願公開第183276号)のマイクロフィルム、<3>昭和62年実用新案登録願第95496号(昭和63年実用新案出願公開第202665号のマイクロフィルム、参照。)。
さて、引用例記載の考案が、包装体数個を少しずつずらしてその表の外に、「裏」にも帯を当接しているかについてであるが、本願第1考案も、【図3】の態様のものについても、「表及び裏に当接して」を包括しているというのであるとすれば、引用例記載の考案(第2図)も、同様に、表のほか裏についても包括していると評することができよう(もっとも、引用例記載の考案は、各包装体の表面のほかに、表を延長して外側面たる周縁部に亘って当接しているところ、表以外は、概ね「裏」と捉えるときは、「表及び裏に」当接してを、包括しているといいえよう(本願第1考案にあっては、裏に当接した態様は、具体的には示されていず、かかる相対関係においては、多少緩和して解することも許容の限りというべきである。)。)。
以上のことを踏まえて、引用例記載の事項を、本願第1考案の構成との関連において一括すると、引用例には「収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納してなる個包装した食肉製品包装体数個を少しずつずらしてその表及び裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯を当接してその収納部と周縁部とを順次連結貼付してなる連結包装食品」が、開示されているということができる。
(4)本願第1考案と引用例記載の考案とを比較してみると、食肉製品を個包装するにつき、本願第1考案は、含気または真空包装したのに対して、引用例記載の考案にあっては、含気または真空包装してするかは記載がなく、これをそなえていないものと言わざるを得ない点、において相違している。
その余の構成部分については、前記にみたとおり、両者間に格別の径庭は存しないというべきである。
(5)そこで、この相違点につき審案する。ところで、一般に食品を包装するにつき、含気包装または真空包装することは、この出願前普通に知られている(例えば、(イ)昭和46年12月20日(財)日本生産性本部発行「新・包装技術便覧一1」(580頁参照);真空、ガス封入包装について、(ロ)昭和60年実用新案登録願第172112号(昭和62年実用新案出願公開第78603号)のマイクロフィルム;真空、ガス封入包装の点、(ハ)昭和61年特許出願公開第6577号公報;含気包装の点、(ニ)昭和61年実用新案登録願第104492号(昭和63年実用新案出願公開第11358号)のマイクロフイルム;含気包装の点。なお、前掲の<1>、<2>の各周知引用例のものも食肉包装である外、真空包装に関するものでもあり、同<3>の周知引用例のものは、真空若しくはガス置換に関する技術としても開示がされている。)。
したがって、この点における本願第1考案の構成は、引用例記載の考案に、天下周知の含気または真空包装を施したものに相当し、斯様にすることは、予測可能な周知技術の付加介入の域を出ず、かつ、よってもたらされる効果も、明細書の記載から窺うに、当業者の予測を越える格別顕著な効用を収めているとは認められない。
(6)以上のとおりであるから、結局、本願第1考案は、この出願前日本国内において頒布された刊行物である引用例記載の考案に基づいて、当業者が、きわめて容易に推考することができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により、本願考案につき、実用新案登録を受けることができない。
4 審決の取消事由
審決(1)のうち、本願第1考案の要旨の認定は認め、その余は争う。同(2)は認める。同(3)のうち、引用例記載の考案が本願第1考案にいう「食肉製品」、「表及び裏に当接して」との構成を包括するとした点についての認定判断、並びにこの点を踏まえて引用例には「収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納してなる個包装した食肉製品包装体数個を少しずつずらしてその表及び裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯を当接してその収納部と周縁部とを順次連結貼付してなる連結包装食品」が、開示されているということができる。」と認定した点は争い、その余は認める。同(4)ないし(6)は争う。
審決は、引用例記載の考案の技術内容を誤認した結果、「食肉製品」の点及び「表及び裏に当接して」との点で一致点の認定を誤り、更に、外装袋の有無の点で相違点を看過したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1)取消事由1(個包装する対象を食肉製品とした一致点の認定誤り)
審決は、引用例記載の考案は「本願第1考案に謳う「食肉製品」をも包括の限りというべきである。」と認定しているが、引用例に個包装する対象として具体的に記載されているものは、「菓子」あるいは「せんべい」だけであって、食肉製品については何の記載も示唆もない。また、審決が、収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納してなる個包装した食肉製品包装体の例としてあげる<1>昭和57年特許出願公開第163612号公報、<2>昭和56年実用新案登録願第71269号(昭和57年実用新案出願公開第183276号)のマイクロフィルム、<3>昭和62年実用新案登録願第95496号(昭和63年実用新案出願公開第202665号)のマイクロフィルムに記載されている食肉製品はその包装体単独であるかあるいは包装体を積み重ねて外包装されたものであり、引用例記載のせんべい等のような形で少しずつずらして包装されたものではないから、陳列した際に食肉製品が底の方に片寄ったりあるいは輸送中移動したりすることがないと判断されるので、食肉製品が引用例記載の「菓子以外の商品」の中に包含されているとは解することができない。したがって、引用例記載の考案には、個包装する対象として食肉製品は含まれておらず、これを一致点とした審決の認定は誤りである。
(2)取消事由2(紙帯またはプラスチック帯を当接する箇所について、表及び裏とした一致点の誤認)
審決は、引用例記載の考案は、各包装体の表を延長して外側部たる周縁部に亘って当接していることをとらえ、「表及び裏に」当接していると認定しているが、引用例第2図のように表を延長した外側部はあくまでも表であって裏ではない。審決は、「本願第1考案も、【図3】の態様のものについても、「表及び裏に当接して」を包括しているというのであるとすれば、引用例記載の考案(第2図)も、同様に、表のほか裏についても包括していると評することができる」というが、本願書添付図面の【図3】は、本願第1考案の連結包装食肉製品自体を示すものではなく、その製造に当たり、治具を用いて3個の製品の上面を連結する仕方を示しているだけであって、下面の連結を行う前の状態のものであるから、審決の上記認定は誤りである。
また、本願第1考案において表及び裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯を当接した構成は【図1】及び【図2】に図示されているとおりであり、これに対し引用例記載の考案はこのような構成のものでないことは明らかである。
この点につき、被告は、昭和57年特許出願公告第24959公報(以下、「周知例」という。別紙図面3参照)を援用し、複数の同一商品を連結包装するについて、一列に並べた複数の商品の表裏両面にテープを貼付して連結することを周知であると主張するが、それが周知であることは争う。周知例記載の発明は、引用例記載の考案とは技術分野が異なるものである。
以上のとおり、紙帯またはプラスチック帯を当接する箇所が、引用例記載の考案は表のみであるのに対し、本願第1考案は、表及び裏である。そして、この構成の相違により、本願第1考案は、引用例記載の考案と異なり、包装内製品の固定が十分に行われ、中央の製品の抜け落ちることを防止し、簡単に数個の包装食肉製品の取扱いを可能とする作用効果を有するから、これを一致点とした審決の認定は誤りである。
(3)取消事由3(外包装の有無の相違点の看過)
本願第1考案は、明細書に「包装材料を節約し」(【0001】段落)、「発泡スチロールトレイやラッピングフィルムを用いることなく、ラベルやステッカーによって連結される」(【0008】段落)と記載されているように外装袋を使用しないものであるのに対し、引用例記載の考案では外装袋の使用を必須要件としているのであるから、両者はこの点で相違する。そして、この構成の相違により、本願第1考案は、引用例記載の考案と異なり、包装から発生するゴミ量を減らすという作用効果があるから、この相違点を看過した審決の認定は誤りである。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。
2 取消事由1について
引用例には「上記実施例は菓子を対象としているが、本考案は菓子以外の商品の包装構造にも適用可能である。」と記載されており、また、引用例は個々に包装した商品をさらに外包装して店頭に展示するものについての考案であるから、その内容物を問わないことは、その考案の趣旨から明らかである。他方、個々に包装したハムやソーセージ等の食肉製品を外包装して店頭に展示することは、日常的に行われていることである。したがって、これらのことから、引用例記載の「菓子以外の商品」に食肉製品が当たることは常識的に推測し得ることである。
3 取消事由2について
審決において、「本願第1考案も、【図3】の態様のものについても、「表及び裏に当接して」を包括しているというのであるとすれば、」として、上記【図3】に記載されたものが、本願第1考案の一実施態様であるかの如く記述したのは、錯誤によるものであって、【図3】は原告主張のとおり本願第1考案における個包装された食品を連結する工程の一過程を示したものである。
しかし、周知例に記載されているように、一般に、複数の同一商品を連結包装するについて、一列に並べた複数の商品の表裏両面にテープを貼付して商品を表裏において連結することは周知であるところ、このようにテープを貼付して表裏両面を連結するのは、片面のみの場合よりも、その連結を強くし連結状態を安定させるためであることは技術常識であり、本願第1考案が裏面を連結したことの技術的意義もこの範囲のことである。
他方、引用例記載の考案において、裏面をもテープで連結することについて特段の不都合があるわけでないから、連結を強くする必要のある場合に商品の表だけではなく裏にもテープを貼付し得ることは自明のことである。そして、例えば、引用例にも、「個包装した菓子だけをトレーの使用無しに一連に連結してブロック化する」旨の記載があり、このようにトレーなしで商品を一体化する場合には、連結を強くする必要があることは明らかである。したがって、引用例には商品の表裏両面に連結のためのテープを貼付することが記載されているに等しいといえる。
そして、原告主張の作用効果は、引用例には商品の裏面にも連結のためのテープを貼付することが記載され、本願第1考案と構成が一致している以上、引用例記載の考案においても奏しうる作用効果である。
3 取消事由3について
審決が、外包装の有無について相違点を看過したことは争う。
第4 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願第1考案の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。
第2 本願考案の概要
成立に争いのない甲第2号証の4(平成7年7月31日付手続補正書)によれば、本願明細書には、本願第1考案を含む本願発明の技術的課題(目的)、構成、作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
1 本願考案は、個包装した食肉含気または真空包装体数個を一括販売する際に、包装材料を節約しながら良好な商品価値を有する連結包装食品に関する(【0001】段落)。
包装食品、例えばスライスハム、ソーセージ等の食肉製品は、従来個包装したものを数個、最も多い場合は3個、発泡スチロールのトレイに入れた上でラップ包装してから価格等のラベルを貼付して販売することが多く行われている。しかし、このような包装形態は過剰包装のそしりを招き、特にこれを使用する発泡スチロールトレイはゴミ公害の元凶として、できるだけ使用しないことを消費者団体等も要求している。そこで、これに代わるものとして、裏に粘着剤を付けたプラスチック等のテープで巻くことが行われている。この包装は、袋に厚みのあるウインナーソーセージの含気包装品等ではうまく行くのであるが、他の食肉製品、例えば真空包装したスライスハム、ソーセージのような食肉製品で3個以上巻いた場合には、中央の製品が抜け落ちてしまう欠点があった。また店頭に陳列した場合、消費者から、みばえ、ボリューム感に欠けると思われる欠点があった(【0002】ないし【0004】段落)。
2 本願考案は、これらの課題を解決するために実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したものである(【0005】段落)。
3 本願考案の連結包装製品は、発泡スチロールトレイやラッピングフィルムを用いることなく、ラベルやステッカーにより連結されるので、従来の利点はそのまま保ちながら、発生するゴミ量を減らし、資源の節約になり、資源愛護感を消費者に与えるものとなる。また、包装は、表及び裏からラベルやステッカーで連結されているので固定が十分に行われ、簡単に数個の包装食肉製品を取り扱うことができる。また、この場合、食肉製品包装体か真空包装されていると食肉製品と包装体とが密着しているので、その固定効果を一層高めることができる(【0008】段落)。
第3 審決の取消事由について
1 まず、原告主張の審決取消事由2について判断する。
(1)成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例には「個包装した菓子を外装袋内に多数入れて包装する商品の形態・・・の場合に、外装袋内に余裕があると、個包装した菓子は何れかの方向に片寄る欠点がある。」(2頁3行ないし7行)、「本考案は、斯かる欠点のない菓子の包装構造を提案するものである。」(2頁15行ないし16行)、「個包装した菓子1・・・をトレー2内に並べて収容し、同列ごとに透明な連結テープ3にて一連に連結し、連結テープ3の端はトレー2の縁に接着し、この状態にて外装袋4にて外装するものである。このように包装すると、個々の菓子1・・・は連結テープ3にて一連に連結され、然も連結テープ3の端はトレー2の縁に接着してあるため、トレー2内においては何れの方向にも移動できない。」(2頁18行ないし3頁6行)、「なお、個包装した菓子をトレー内に入れずに外包装する場合には、夫々の菓子だけを一連に連結テープにて連結し、ブロック化する」(3頁13行ないし15行)との記載とともに、第1図には個包装した菓子をトレーに収納し、同列ごとに菓子の表面のみを連結テープで一連に連結した上で外装した実施例が、第2図には個包装した菓子の片面のみを連結テープで連結した状態がそれぞれ示されており、個包装した菓子を外装袋に収納するに際し、菓子がいずれかの方向に片寄ることを防止するために、その片面を連結テープで連結する技術は開示されているものの、菓子の表及び裏を連結テープで連結する旨の記載は存しないことが認められる。
(2)一方、前掲甲第2号証の4によれば、本願書添付図面【図3】には、3個の食肉製品の片面のみを連結した状態が示されているものの、これは本願第1考案の連結包装食肉製品を治具(4)を用いて製造する態様を示しているにすぎず、本願第1考案の連結包装食肉製品とするためには、上記【図3】の状態から更に別の片面を別の装置を用いて連結する必要があることが認められる。
したがって、審決が、上記【図3】の態様が、表及び裏に紙帯またはプラスチック帯が当接されているという本願第1考案の構成を備えていることを前提として、これとの対比において、引用例の第2図について、連結テープが表及び裏に当接されていると認定したことは、その前提を誤るものである。
(3)もっとも、被告は、審決の上記誤りは認めつつも、周知例を援用して、一般に、複数の同一商品を連結包装するについて、一列に並べた複数の商品の表裏両面にテープを貼付して商品を表裏において連結することは周知であるとした上、テープを貼付して表裏両面を連結するのは連結状態を安定させるためであることが技術常識であり、これを前提とすれば、引用例には、商品の表裏両面に連結テープを貼付することが記載されているに等しいと主張する。
検討するに、成立に争いのない乙第1号証によれば、周知例には、「本発明は、高周波コイル等の円筒形の電子部品の連結方式に関するものである。近時、電子部品をプリント基板に挿入する作業を自動的にかつ連続して行う自動挿入装置が考えられている。」(1欄27行ないし31行)、「円筒形の電子部品であればどのようなものにも適用できることは言うまでもない。円筒部と端子部とを有する高周波コイル11を同じ向きに整列させ、その整列した両側からテープ12a、12bを貼着する。すなわち、テープ12aと12bとは、整列した直径方向の両面から高周波コイル11の円筒部の外周半円を包み、また、高周波コイルの間ではテープ12a、12bが貼り合わされるようにする。したがって、テープに添って高周波コイルが同じ向きに整列して連結されることになる。」(2欄33行ないし3欄6行)、「このようにテープで連結された複数の電子部品は、自動挿入装置においてそれぞれの電子部品間のテープを切断することにより、1個ずつに切り離されてプリント基板等に取付けられる。」(3欄17行ないし21行)、「本発明によれば、電子部品が直径方向に連結されているので、間隔を適当にとれば、ケース内に高周波コイル11を整列させることができる。この状態からテープの一端を引き出して自動挿入装置に電子部品を供給することができる。」(3欄25行ないし4欄3行)、「両側のテープの色を変えることによって、電子部品の方向を表示することができる。・・・上記のように、本発明は、生産、搬送、貯蔵等の面で大幅に改善された電子部品の連結方式である。」(4欄16行ないし22行)との記載があることが認められ、上記記載に徴すれば、周知例記載の発明は、プリント基板に高周波コイル等の円筒形の電子部品を自動挿入する自動挿入装置に円筒形の電子部品を供給するために、これを一定の等間隔をおいて2本のテープを用いてそれらの両側(外周半円)に貼着し、ケース内からテープの一端を引き出す技術に関するものと認められる。
上記認定によれば、周知例記載の発明はプリント基板に電子部品を挿入する自動挿入装置に円筒形電子部品を供給する技術分野に属するものというべきところ、上記第2、1認定事実によれば本願第1考案は個包装した食品の包装体を連結する包装の技術分野に属する(この点では引用例記載の考案も同一の技術分野に属する。)と認められるから、周知例記載の発明は本願第1考案とは技術分野を全く異にするものである。そして、技術分野の相違に伴い、その解決すべき課題とするところも、本願第1考案が、見ばえ、ボリューム感をあげていること前記第2、1認定のとおりであって、これが本願第1考案に限らず、本願第1考案の属する技術分野においては重要な課題であると認められるのに対し、周知例記載の発明においては、見ばえ、ボリューム感が考慮されているとは到底考えがたく、甚だしく相違する。さらに、具体的連結態様を検討しても、前掲乙第1号証によれば、本願第1考案と異なり、周知例記載の発明の連結は、テープを貼付して連結される円筒部分には、「表」すなわち人の目に立つ方向の面と、「裏」すなわち表面と反対の隠れている方という概念は観念されていないこと、及び電子部品間のテープを自動挿入装置で切断することによって各電子部品を1個ずつに切り離すものであるから、円筒形電子部品を少しずつずらして連結するというような連結態様は予定していないことが認められる。以上の事実によれば、周知例記載の発明の連結は、その技術分野の相違に由来して、考慮されている課題も、具体的連結態様も、本願第1考案の技術分野におけるそれとは著しく異なるものであって、両者は技術的にみて親近性を有するものではないといわざるをえない。したがって、周知例記載の発明も、物品を連結するという限りでは、本願第1考案と共通点があるということはできるものの、そのことをもって、周知例記載の発明の連結態様が、本願第1考案の属する技術分野の当業者において周知であるということはできない。
そうすると、周知例をもってしても、食品包装体の連結包装の当業者において、一列に並べた複数の商品の表裏両面にテープを貼付して商品を表裏において連結することが周知であると認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠もないから、これが周知であることを前提とする被告の主張は、前提において失当である。
また、被告は、引用例に「個包装した菓子だけをトレーの使用無しに一連に連結してブロック化する」旨の記載があることをもって、連結を強くする必要がある場合を示す記載である旨主張する。しかしながら、引用例記載の考案は、トレーを使用しない場合でも、連結した菓子を外装袋に入れるものであることは、上記(2)認定事実から明らかであるところ、外装袋に入れる以上、直ちに連結を強くする必要があるとはいえないから、上記記載をもって連結を強くする必要がある場合を示す記載ということもできない。したがって、被告の主張は、この点においても失当である。
(4)以上のとおり、引用例には、商品の裏表両面に連結のためのテープを貼付することは記載されていないから、本願第1考案と引用例記載の考案は、紙帯又はプラスチック帯を当接する箇所が、本願第1考案は表及び裏であるのに対し、引用例記載の考案は片面のみである点で相違する。そして、本願第1考案は、上記構成の相違により、包装は表及び裏から紙帯またはプラスチック帯で連結されているので固定が十分に行われるとの作用効果を奏すること前記第2、3認定の事実から明らかである。したがって、審決は、取消事由2にかかる本願第1考案と引用例記載の考案の一致点の認定を誤ったものであり、この誤りが、本願第1考案を引用例記載の考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものとした審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 以上のとおりであるから、審決は、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。
第4 結論
よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)
別紙図面1
<省略>
<省略>
別紙図面2
<省略>
別紙図面3
<省略>